SUZUKI GSX-S1000F ご紹介
2018年4月15日

(インプレッション・レビュー)
※かなりの長文です。お急ぎのかたは太字だけ読んでください。
17年間・6万キロくらい乗ったFZS1000からの乗り換えです。FZS1000はとてもいいバイクで気に入って乗っていたのですが、16年間乗ったあたりで電装系トラブルが発生し、時期的に新品パーツも入手できないことで乗り換えることにしました。

2018年3月末に購入した、GSX-S1000F。
GSX-S1000FってFZS1000のようにオールラウンド行けるんじゃないか?と気が付いてこのバイクのことを調べ始めました。
また、結構真剣に国産4社のモデルを調べました。が、やっぱり直接のライバルはいないようです。
カワサキのNinja1000が、高性能ZX-10Rのエンジンをスポーツネイキッド用フレームに乗せたZ1000にカウル付けたモデルになっていて、生い立ちとしては同じです。
しかしNinja1000は高速ツアラーに寄せた仕様になっていて乗車姿勢も高速ツアラーに適したように変更され、挙動もジェントルで、スポーツネイキッドでやんちゃなZ1000とははっきりと性格や使い勝手を変えています。
対してGSX-S1000Fは、高性能GSX-R1000のエンジンをスポーツネイキッド用フレームに乗せたGSX-S1000をフルカウル(FはフルカウルまたはフルフェアリングのFらしい)にした「だけ」で、乗車姿勢も性格もやんちゃなスポーツネイキッドのままです。
この違いはオプションパーツでも顕著で、ツアラーには需要が高いパニアケースなどを純正オプションとして用意しているNinja1000に対し、GSX-S1000Fはパニアケースはおろかキャリアも純正では用意しませんという割り切りっぷり。
ルックスも、ハンサムでクールに見えるNinja1000に対して天真爛漫な脳筋に見えるGSX-S1000F、という感じで両者のキャラクター通りの表現になっていると思います。
で、私は比較的気軽なスポーツ走行を楽しみたいのがメインなので、より近いのはGSX-S1000Fかなと思ってこちらにしました。(結構Ninja1000と迷いました)
こういう「特定のジャンルに特化しない」モデルを、潔くない・妥協の産物だと嫌う人もいますが、それはそれ、これはこれ。
1つの機種で多くの使い方に対応させて、どの使い方でも大体満足いく出来に仕上げるというのは、特化型で完成度を突き詰めるのとはまた別の高度な技術と管理が必要です。
スズキがその技術や管理につぎ込んだ経営的・工業的な熱意に敬意を表したいです。
経済的な理由もあり1台でいろいろ楽しみたいという私のような庶民には実にありがたいモデルです。

経済的な理由と書いたついでに、GSX-S1000Fは安い!
いや120万弱なので、私としても決して安い買い物じゃないですが…。
おさがりとはいえ途轍もない開発費が投入されたスーパースポーツGSX-R1000ベースのエンジン積んで、GSX-R1000のスイングアームそのまま載せて、これまたGSX-R1000ベースの専用設計の軽量アルミフレームで、サスペンションはカヤバのフロント倒立のフルアジャスタブル、ブレンボのラジアルマウントモノブロックブレーキキャリパーに、ABSとトラクションコントロールの必要十分な安全装備、さらにスリッパークラッチまでついて税込み120万円でお釣りがくる(2018年3月時点)!
ちょっとおかしいですよ価格設定。
特に2017年以降のモデルはステップやレバー回りがブラックアウトされたこともあって精悍さを増し、より高級なモデルに見えます。

購入にあたり車種の情報を調べてみたら、2017年モデルからスリッパークラッチを装備している、と。
FZS1000に乗っていた時から、とても欲しかったスリッパークラッチ。
これは2017年モデルが欲しい、こりゃ(2018年3月に買うなら)新車買うしかないなと思って注文。
このほかにも、2017年モデルからエンジンシリンダーにベンチレーションホールを開けてポンピングロスを低減させてパワーアップしてる…んですが、正直このレベルのパワーになってくるとパワーアップしても体感でわからんのじゃないかな(でもやっちゃうところがスズキらしい)。

(画像は動画からの切り抜きで見にくいですが)
実際に乗った印象は……

FZS1000からの乗り換えだと軽く感じます。押し歩きも軽い。FZS1000もクラスとしてはかなり軽かったのですがその上を行きます。
あくまで大型バイクとしては軽い、ということで、原付とか250ccのように取り回しが軽いわけではありません、念のため。

身長にもよりますが私(181cm)の場合はちょうどいい感じの楽な乗車姿勢です。
ちょっとだけ上体が前傾していてフロント荷重もかけやすいしリア荷重を意識することも容易。
これはFZS1000もそうでしたが、バーハンドルならではの自由度ではないでしょうか。

足回りは、オフ車と見まごうような長ーいストロークを持っていたFZS1000と比べてかなりスポーティな味付け。
いい道では前後タイヤの接地感も高く、安心して走れます。
悪路では、このスポーティな味付けのままハイペースで走るならサスペンションのグレードをもう一歩上げたい感じはします。
特に標準設定ではサスが大きく縮んでからの伸び側の減衰が甘い気がします。加速時は特に。
ハイペースで悪路を走るとリアが跳ねるような印象になるのはこのせいでは。
突き上げ感を感じるのは硬すぎるんじゃなくて(荷重移動での動きを確認すると標準設定で硬い印象はない)、上下動の収まりが遅い、縮んだサスの復帰が速すぎで、フロントもリアも、特にリアは跳ね上げ感として伝わってくる…のでは。
あとプリロードは一般的な日本人が乗るには体重に比してちょっと強いかもしれません。
ただし頑強なフレームとスイングアームのおかげか、姿勢が致命的に乱れるような無様なふるまいはありません。
前サスはフルアジャスタブル、後サスもプリロードと伸び減衰は調整が効くので、ある程度までは対応できます。
あと、安全面を考えた手軽な対処法として、悪路は十分速度を落としてゆっくり走るという選択肢があります。
ゆっくり走っている限りは乗り心地はやさしいです。
また、スポーツ走行ではお作法通りシートにどっしり座り込まずにきちんとニーグリップとステップ荷重で体を支えるなら、多少車体が暴れてもあまり気にならずに走り込めます。
どうしてもという場合は社外品の良いサスペンションに交換という手もあります(が、あまりラインナップはない…)。
街乗り・ツーリングメインならこれほどスポーティな味付けじゃなくていいので、とりあえず減衰・プリロードとも最弱にすることをお勧めします。(ツーリング中に公道でコーナー入口のブレーキングで底付きするような走り方はしないでしょう)
安定性は落ちますが、そんな高い安定性がいるようなスピードレンジで走らなければいいだけの話です。
社外品のサスは設定幅が広いためこれ(何も考えずに最弱とか)をやるとマジで死にかけるくらい安定性がなくなったりするのですが、そこは純正サス、ユーザーがうっかり極端に設定しても事故を起こさない範囲くらいに調整幅が制限されており、最弱でも安定性を致命的に失わない程度に加減されています。
2018/5/5追記。すべての減衰とプリロードを最弱にして、一般道メインでサスを動かすよう意識して2500Km走ったところ、摺動面のアタリが出て馴染んだのか、動きは格段にスムーズになりました。これなら標準設定に戻しても、問題視するほどではないと思います。及第点をクリアしてます。

コーナリングは、前愛車のFZS1000とは対照的に、フロントタイヤでぐいぐい曲がっていく感じがします。
ただ曲がりすぎという気はしなくて怖さはありません。
スーパースポーツだとさらに前輪で曲がる感が強かったりしますが、そこまではいかない感じ。
フロントタイヤがスゥッと内側に入ってくる(けど切れ込みがきつい感じはしない不思議)ので、旋回開始したらさっとスロットルを開けて荷重を後ろに持っていくという積極的な走り方をするのが楽しいです。
そしてスロットルを開けるのに不安がありません。

重心が低いように感じて左右にも振り回しやすく、よいしょっという感じがなくひょいひょいと切り返しができ、振り回すような走りをしても疲れにくいです。ひらひら感があります。
これがショートマフラーなどによる「マス(質量)の集中」の効果ってやつですか…。

直列4気筒を横置きしているのでエンジン幅がちょうど「やじろべえの腕」のような効果をもたらして、唐突には倒れ込まずバンク角が決まれば安定しちゃう、という直4横置きバイクならではの安定性も両立しています。
低速時での挙動も扱いやすく素直で、Uターンや小刻みなスラロームでもライダーの思惑通りに旋回します。
軽さもあり不安が少なく、とてもいいです。
こういうところでバイクの物理的な素性が出たりするんですが見事なものです。
低速スラロームから高速コーナリングまでとても楽しく走れるので、自分の運転が上手くなったと確実に錯覚します。

スロットルを開けると、特に日常使うような回転数域では吸気音(排気音ではなく)がよく聞こえて気持ちいいです。
この音を作るためにカムプロファイルやスロットルボディの直径などを苦心して調整したとのこと。
もちろん排気音もいい音で鳴ってますが開口部が後ろ向きなので、ヘルメットと走行風も相まって、アイドリングや初期加速時に聞くほどの響きは伝わりません。
…そんな風に思っていた時期が、私にもありました。
実際には、馴らしが終わって5500rpmの封印を解除して11500rpmまで回してみると、5500rpmより上は、POOOOOWWWWWEEEEERRRRR!!!!という咆哮が轟きます。
前述のとおり、日常使うような、4500rpmくらいまでで流していると吸気音が印象に残ります。クォォォーーーンンと響いてとても気分いいです。
個人的には、アイドリング音や、低回転域のパーシャルスロットル時の排気音はもうちょっと静かな方が好みです。
一般的なライダーが排気音を実感する領域って実はまさにこのあたりと全開時の高回転領域の音でしょうから、ここを野生的に高揚するように演出したのかなと思います。

エンジン特性は、とても扱いやすく、低回転から十分以上のトルクを発揮してくれてスムーズに走れます。
超トルクの国産リッターオーバーネイキッドから乗り換えたりだと話は別ですが、街中で低回転で比較的高いギアで走ってもぎくしゃくせず余裕十分です。
ただ、極低回転、アイドリング(1000rpm)〜2250rpmくらいはFZS1000のほうがトルクがあったというか粘ったような気もします。
乗り換えて慣れるまで、発進や極低速徐行で正直エンスト何回かしちゃいました。クラッチのミートポイントが違ったからかもしれませんが。

峠道では1速2速でも走りやすいです。トラクションコントロールのおかげもあって上まで回して使い切れる感じ。
FZS1000もそうでしたが、ハイパワーエンジンなのに、乗っていてあからさまにヤバイヤツ感はなくて、ライダーがその気になった時だけ、いつのまにかスロットルをしっかり開けてハイパワーを引き出せるという自然体な味付けです。
信じられますか、148馬力のバイクを素人が峠道で乗って「使い切れる感じ」とか言ってしまうという状況を(倒置法で反語)。
それくらい普通に身構えずにアクセルを開けられます。上体が起きている乗車姿勢なのに意図しない変なウィリーもしないし。(しようと思えば簡単に上がりますが)
「使い切れる感じがする」だけで「実際に使い切っている」わけではありませんが…。

峠道を1速2速3速あたりで飛び回っていると、特に下りでは2017年モデルから装備されたスリッパークラッチの恩恵を実感します。
シフトダウンしてすぐにクラッチレバーをスパッと離せる喜び。姿勢制御と脱出時のアクセルワークに集中できます。
FZS1000の時は同じ道でもシフトダウン時のクラッチワークに神経を使ってました。それはそれでうまくいったときの喜びはあるのですが。

3250rpmも回っていれば、俊敏なレスポンスと十分以上の加速を見せてくれ、スーパースポーツの低中回転域で感じるようなもどかしさとは無縁です。
もちろんパワーバンドに入った時のPOOOOWWWEEEERRRR!!!(またか)感は素晴らしいです。心の底からヒャッハーできます。

エンジンレスポンスの好みやスロットル操作のクセには個人差があり、この活発なエンジンを唐突で乗りにくいと評する人もいると思いますが、個人的にはこのスペックのエンジンの挙動としてはかなり馴致されているのではないかという印象です。
エンブレもしっかり効きますがメカニズムから必然のもので、FZS1000からの乗り換えでは少なくとも悪い感じはしません。(FZS1000もエンブレは強烈でした、その前が軽量単気筒のGoose350でこれまたエンブレが強烈でしたから洗脳済かもですが)

イメージが野獣なので、普段は「野獣の背をやさしく撫でるようなイメージでスロットル操作する」とスムーズに走り、いざというときは鞭をくれるようにスロットルを開けると猛然と飛び掛かるように加速する、とスズキの中の人が言ってました。(中の人いわく「野獣」は「豹」だそうです。デザイナーじゃなくてテストライダーの人)

もちろん、極低速域でもっとスムーズならそれに越したことはありません。
より過激なエンジンを搭載しているスーパースポーツバイクには、GSX-S1000Fよりもっと極低回転域でスムーズで優しいスロットル反応を示すバイクもありますが、それらは、より高回転域にフォーカスした特性による低中回転域トルクの細さと、コンピューターが電子制御スロットルの開度を細かく調整、時には非線形に調整することができるから可能な芸当。
GSX-S1000Fにも電子制御スロットルがあればもっと極低速域でも扱いやすくレスポンスのセッティングを詰められるでしょうが、ケーブル直結でのスロットル開閉で、このトルクカーブのエンジンであれば普通にこんなものではないでしょうか。
私はキャブレター仕様のFZS1000からの乗り換えですが、別段気になるような唐突感はありません。
低速域のパワーウェイトレシオを踏まえて評価すると、よく躾けてあると思います。
どうしても挙動の唐突さが気になるなら、「流して走るときは、一つ高いギアを選ぶ」という対処をお勧めします。
GSX-S1000Fのエンジンはスーパースポーツエンジンをベースにしているくせに低中回転域から十分以上にトルクがあり、しかもミッションはカバレッジ2.09のクロスレシオですから、一つ高いギアを選んでも普通に活発にスムーズに走れると思います。

スズキは個性的なバイクを作る、という評価がありますが、実は真面目で不器用なメーカーと思っています。
別に狙って個性的になっているわけではなく、スズキとしてはリリースするモデルすべて万人受けするヒット作になるように(少なくともマーケティング側は)企画するのですが、なぜかリリースすると市場評価が「個性的」になってしまう…。
一般受けするのに必要な感性の部分があまり得意でないメーカーというか、一般受けと性能のトレードオフがあるなら迷わず性能を取るメーカーというか、「ベーシックな」とか「バランス重視」とかマーケティング側が柔らかいお題目を掲げても開発陣は性能を追求せずにはいられないメーカーというか(その結果が148ps/214Kgという数値になって出てきています)、ある意味硬派というか、性能一辺倒技術集団というか…。
ですが、GSX-S1000Fはだいぶ一般受けの部分にも踏み込んできているように感じます。
ただ、さすがにそのあたりが大得意なヤマハと比べると不器用かなあと思うところもあります。
「理論的に「一般受け」を要素分解して数値化しそれぞれを向上した」的な、理系技術者っぽい不器用さを感じます。
そうじゃなくてさあ、もっとこう…あるだろう!?ウェーイ的なさあ!?とツッコみたくなる人もいるのでは。
これはヤマハのFZS1000に乗っていたから思うのかもしれませんが、言葉にできない行間の趣というか、いろんな要素がごちゃ混ぜになりすぎて要素分解や理論化できない領域のフィーリングの味付けというか、そういうところがヤマハはとても上手い。
スズキは根がメチャメチャ真面目で、フィーリング重視、バランス重視のモデル、あえて崩した感を出したいモデルでもその生真面目クサさを隠しきれないのではないか。(ヤマハが不真面目というつもりはありません、洒落者を装うときは上手に真面目さを隠すだけの器用さもある、ということです)
だから、スズキ車は「性能は素晴らしい、だが…」となにか不足を指摘されるかもしれない部分はあります。
なんというんでしょう、走りの艶っぽさ、色気…?言葉にしにくいモヤモヤした部分が、「ちょうどよくまとまっている」か、というところ…。走りだけでなく見た目のデザインにも通じるところがあります。
もちろんGSX-S1000Fの楽しさの中にも感動はあります。不足しているとは思いません。ですが、そういう部分が得意なメーカーの製品はさらに上手く感動を演出します。
でも、その不器用さこそがスズキのバイクの魅力でもあるかもしれません。(これを「だが、それがいい」とか言っちゃうと「鈴菌保有者」らしいです)

GSX-S1000Fはとても乗って楽しいバイクです、ご心配なく。超気に入っています。加速中はヒャッハー感(なんだそれ)もあり、自在なコーナリング、高揚する音、私にとっては十分以上にエモーショナルです。
しかも姿勢が楽だからのんびりも走れる。ツアラーやアドベンチャーほどの適合性はないですし積載性については工夫がいるものの、ツーリングも十分守備範囲に収めています。
ただ「熟女の色気」とか、そういうしっとりした感じはありません。(FZS1000にはあった)
元気溌剌の若者、高校生・大学生みたいな感じ。(逆にここまでの溌剌さはFZS1000にはなかった)
若いから空気読まないよね、と感じるところもあります。(アイドリングの排気音とか)
おっさんが乗ると気分が若返りますよ(笑)
元気がいいから、もっとジェントルなバイクと比べると疲れやすい、という面はあるかもしれません。しかしバイクは(特にスポーツバイクは)ある意味疲れるために乗る乗り物です。
しっかり疲れた後は充実した気分でしっかり休んで次に備える、というサイクルが似合います。
そして疲れた状態でも意のままに扱える軽さと素直な操縦性をGSX-S1000Fはもっています。

各部説明

細かく見ていくと、苦心してコストを絞ってこの価格を実現している様子が伝わってきます。
コスト掛けるところを「選択と集中」した結果、とてもお買い得な価格設定を実現しています。
ユーザーが部品交換などでさらにコストをかけることでアップグレードできそうなところもあります。

サイドビュー

一見スーパースポーツバイクのような印象を受けるサイドビュー。
サイドビューは、たぶん多くの人がカッコいいと思うのでないでしょうか。
スズキのデザイナーは「クラウチング・ビースト」「低く構えた、狩りをする野獣」をイメージしたそうですが、デザイナーの思惑通りに感じられます。

よく見るとハンドル位置が高かったりミラーがハンドルマウントだったりと、スーパースポーツバイクとは違うと分かります。
スーパースポーツが好みの人の中には、なまじ大枠で似てるだけに違和感というかニセモノ感を強く感じる人もいそうですが、実際に乗る側の立場としてはハンドル位置が高いのは日常使用にはとてもありがたいです。
サイドカウルは最近はやりのレイヤー構造のカウルを際立たせるカラーリングになっています。

シートカウルがとても短く、フェンダーやナンバーがロッド状のステーによって保持されるのが最近の流行です。全長やホイールベースが短く見え、軽快感があります。
そういった演出効果でコンパクトに見えますが、実はホイールベース1460mmでそれほど小さいわけではありません。
前愛車FZS1000は大柄に見えますがホイールベースは1450mmですからGSX-S1000のほうが長い。
ハンドル切れ角の差もあり、最小回転半径は3.1mで、FZS1000の2.9mよりちょっと大きくなっています。
コンパクトで小柄に見えますが実際の大きさは決して小さくないので、駐輪場など立て込んだ場所での取り回しにはそれなりに気を使う必要があります。
軽いので苦労はないのですが、イメージより小回りが利きません。

キャスター角はFZS1000の26°に対してGSX-S1000は25°で少しだけ立っており、直進性よりも一次旋回の挙動、機敏さに重きを置いているのが判ります。
さらにツアラー寄りに見えるNinja1000ですが、実はNinja1000はホイールベースは1445mmとこの中では最も短く、キャスタ角も24.5°で最も立っていて、ここだけ見るとNinja1000が最も機敏寄りのスペックです。
車重と空力とサス設定で安定性を稼いでキャスタやホイールベースはバランスを取って機敏寄りということなのかも。
なおスーパースポーツのGSX-R1000のホイールベースは1420mm。キャスタ角は23°。問答無用に機敏寄りです。

2017年モデルから、足をおくステップやハンドル周りのレバー類がブラックアウトされて、より精悍なルックスになりました。
専用設計のアルミフレームはブラックアウトされていてあまり目立ちませんが、GSX-R1000譲りのスイングアームや、アグレッシブなデザインのフルカウルから、いかにも高性能そうな印象を受けます。


フロントビュー

フロントビューはNinja1000のハンサムな印象と対照的に野性的というか動物的な印象を受けます。
横から見たイケメンっぷりから想像もつかないひょうきん顔。目をクワッと見開いて、なにかに驚いている風。あと、仮面ライダー系にも見えます。
デザイナーとしてはヘッドライトの下にあるポジションランプが「牙」をイメージしていて、野獣をモチーフにしたらしいのですが、評判を聞いてみると「…文鳥?」、特に青だと「…イルカ?」という意見多数の模様。牙じゃなくて涙だよねという話も。
「かわいい顔してるだろ、高性能なんだぜこれ」

ライト位置が低くフェアリングも低くバーハンドル・ハンドルミラー装備のせいかビッグスクーターにも見えなくもありません。
オーナーの人でも結構な人が「真正面から見た顔だけは気に入らない→他はどこから見てもカッコいいのにスズキだからしょうがないか→見慣れればそう悪くもない→実車を見るとこれはこれでアリだな(鈴菌感染済み)→なんだかカッコいいぞ・かわいいぞ、いいじゃん(鈴菌発病済み)」という感じをWebやYoutubeで発言されています。
個人的には、このカラーリングの正面からの顔はなかなか迫力があって男前だと思っています。

あと、これもよく言われることですが、写真写りが悪いです。
スマホやノートPCの小さな画像だとほんとに小動物、文鳥?みたいですけど、実車は十分迫力があるサイズなので、押し出し感と凛々しい感じが出ます。(美形のイケメンじゃないですが、たくましく男らしい感じ。わかりやすくいうと脳筋感

そしてGSX-S1000Fが安い理由の一つがライトにあります。ライトはふつうのハロゲンバルブを用いるタイプで、最近流行のLEDやHIDではありません。走行性能に関係しないところでコストを抑えています。
ライトはロービームとハイビームが左右で役割分担するタイプです。これも最近の2灯式のバイクではふつうのことで、コストを下げるための構成です。
この大きいライトは反射鏡の形状設定に余裕があるだろうから配光はキレイかと思ったのですがそうでもなく、ロービームは結構スポット的な照らしかたをします。
ふつうのハロゲンバルブのランプとしては十分に明るいです。

私の個人的な使用法では夜にバイク乗るのは非常事態なので実は明るさ・暗さはあまり気にならないですが、LEDのほうが今風だったり消費電力的に有利だよなーとは思います。


リアビュー

短いテールカウルがいかにも俊敏・軽快そう。
ツアラーのような安定性をイメージするルックスではなく、ヒラヒラとコーナリングを楽しむ感じが出ています。
見た目通り、積載性は劣悪です。
また、テールランプがタンデムシートのすぐ下にあるため、軽快感はあるのですが、積載しようとしてキャリア的なものを後ろに伸ばしても、トラックのような視点が高い大型車からブレーキランプが見えにくくなり危険で、大荷物の積載には気を使います。
メーカーとしてはスーパースポーツのネイキッド版みたいなもんなんだから、大荷物積んで走るようなモデルじゃないよ、ということでしょう。
その割り切りが不便さを招いてもいますが、だからこそ、この走って楽しいキャラクターが作り上げられているともいえるところ。
積載性はユーザーの工夫でなんとかするという部分です。

ミラー

ネイキッドのGSX-S1000とはデザインをわざわざ変えているメーカーこだわりポイント。

フルカウルなのにミラーがハンドルマウントなのは不自然、視線移動を考えるとカウルマウントのほうがいいという人もいると思います。
しかしバーハンドルを用いた上体が立った乗車姿勢で、なおかつGSX-S1000Fのように低く構えたカウルを備えたバイクの場合、カウルマウントのミラーにすると、視線の関係からミラーのポールをとても長くしないといけません。
するとこのミラーポールが昆虫の触覚のようにとても目立ちます。そして長いポールによって走行中の振動が増幅されてミラー画像が盛大にブレます。
前愛車のFZS1000がまさにそれで盛大にブレて、ハンドルマウントのミラーへの変更がオーナーの定番の改造ポイントだったりしました。
なのでハンドルマウントなのはコストの問題だけでなく、視認性も考えてのことと思います。

上下の角度調整の幅が私のような座高が高い成人男性には足りず、ハンドルマウントのミラーホルダー自体を動かすことで対応しました。


インストルメントパネル

モノクロのフル液晶で、これもGSX-S1000Fが安い理由。周囲もプラスチック樹脂で高級感はありません。
古い時代は液晶だとハイテクで高級感があるということになっていましたが、フル液晶はステッピングモーターや指針などの精密な可動部がないため、生産工程を作り込んでしまえば製造は安価です。
また(可動部品がないので)軽量で振動や衝撃に強く、オフロードバイクでは古くから使われてきました。
GSX-S1000Fのメーターパネルはモノクロですし、高解像度ビットマップでもないので、かなりコストが抑えられているでしょう。
低コストなのはさておき、内容としては非常に多くの情報が表示されます。
情報を押し込んだ感じで、普段見るところと見ないところを自分で区別つけておかないとごちゃごちゃして混乱します。
普段乗っていれば自然に注目する場所が固定されるのですが、試乗ですと慣れないので情報を探しちゃって特に見にくいと感じるでしょう。
回転数や速度表示、ギアポジションなどの主要情報は大きく表示され、そこに限れば見やすいです。
インストルメントパネルはカタログなどではマジマジ見るのですが、走行中はメーターよりも前や周囲やミラーを注視してますから、実は走行中はあまり見ないんですよね。
公道を走行中にちらっと目をやって、気になるのは「速度」「回転数」「ギアポジション」「何か警告灯ついてないか」、もうちょっと落ち着いているときに「燃料残量はどのくらい?」くらいなもので。
ここに書いた主な情報はパッと見ただけで読み取れるインストルメントパネルになっていて安全性が高いレイアウトだと思います。
もうちょっとパネル全体が大きいと、細かい情報の読みさすさも増すのでしょうが、ネイキッドでライトカウルが小さいGSX-S1000と共用することを考えるとこれが限度でしょうか。
燃料計と時計、予想航続距離の表示があるのがツーリング時にはうれしいところ。
ギアポジションの表示も、「幻の7速」にシフトしようとしなくなるのでありがたい。(みんな経験ありますよね?)
今時のバイクらしく、メインスイッチをONにするとメーターパネルのオープニングセレモニーがあります。気分が盛り上がります。
バックライトはホワイトなので夜はこんな感じです。↓

エンジン

水冷4サイクル直列4気筒DOHC998cc16バルブ高性能エンジン。
スズキが誇るGSX-R1000用(K5〜K8世代用)の超高性能エンジンを公道用にリファインして搭載。
全域でとても元気があり、緻密にスムーズに吹けあがり、レスポンスにも優れ、乗っていると「高い技術で設計され、高い精度で製造された高性能なエンジン」という実感が伝わってくるエンジンです。
GSX-R1000のK7型のエンジン(K5〜K8まで基本的には同じエンジンですが、GSX-S1000のエンジンはエンジンハンガーボルトの位置からK7-K8ベースと思われます)の、カムプロファイルを変え、ピストンとリングを軽量化し、クランクも新造し、インテークもエキマニも変更し…と、かなりコストと時間をつぎ込んで調整して、スーパースポーツの高性能感を損なわせずに、最高出力を落として低中回転域の特性を改善しています。(だからこの価格はバーゲンプライスと思います)
公道で楽しく使いやすくという追い込みっぷりに情熱を感じます。
このバイクの価格のほとんどは専用設計フレームとこのエンジンにつぎ込まれているのではないかと思うほどです。
最高出力は109kW・148psを10,000rpmで発揮。最高トルクは107Nm・10.9kgfmを9,500rpmで発揮。
レッドゾーンは11,500rpmで、出力は低回転から高回転にむけて直線的に立ち上がります。
どこが低中回転重視なんだと思われるかもしれません。
しかしベースとなったK7型GSX-R1000は、実に12,000rpmで185psを発揮、最大トルクも11.9Kgfmを10,000rpmで発揮、そして10,000rpm以上は二次曲線のようにパワーが湧き出て「無敵ゾーンだ!」という感じです。
それに比べるとGSX-S1000Fのはベースが同じエンジンとは雖も、数字の上ではかなり牙を抜かれています。
サーキットで勝つための尖った牙を抜いた分、普通の歯を強くして、公道のいろいろな道を旨く味わえるようなチューニングに直しています。

初代GSX-R1000はGSX-R750ベースのフレームに1000ccエンジンを搭載してデビューしたため、フレームに挟まれてエンジン幅を広くできず、結果としてストロークを拡大して排気量を上げたことで、スーパースポーツとしては異例に低中回転トルクに優れたエンジン特性でした。
これが大きな支持を得たこともあって、それ以来スズキは一貫して低中回転トルクにも優れたエンジンをGSX-R1000に与え続けました。
なかでもこのK5型〜K8型に搭載されていた世代のエンジンは「1000cc専用フレーム搭載を前提に設計されたスーパースポーツエンジンとしては異例のロングストローク傾向」と言われていました。
(なぜ「傾向」とつけるかというと、実際にはバイクのエンジンは基本シリンダー直径のほうがストロークより大きいエンジンなのでエンジンの一般的な分類では「ショートストローク」だからです。
スーパースポーツ用エンジンの多くは高回転域で異次元のパワーを発揮するために「超ショートストローク」の設計が多いなかで、GSX-R1000のK5〜K8は「ショートストロークではあるが、異例にストロークが長め」なのです)
ロングストローク傾向はテコの原理と爆発の膨張力をより長く受けられることで低中回転のトルクを出しやすく、燃焼室を小さくしやすいので圧縮比の最適化などで高効率(燃費がいいとか)にしやすい反面、高回転域だとピストンスピードが速くなるため潤滑管理がシビア、摺動抵抗や空気抵抗が大きくなる(ピストンスピードの二乗に比例して大きくなる!)、コンロッドへの負荷も高い、吸排気ポートサイズを大きくできず吸排気損失(ポンピングロス)が大きくなりがち、などで高回転型エンジンにはしにくいのですが、当時K5〜K8型のGSX-R1000に搭載されたそれは、まさに変態技術集団スズキの面目躍如といったところで、見事なスーパースポーツエンジンに仕上げられていて大絶賛されました。
それをさらに低中回転域重視にリファインしているので、スーパースポーツエンジンをベースにしてるとは思えないほどの低中回転の充実ぶりです。特に3500rpmから8000rpmがいい。イイ気になれます。
軽い車重に加えて、この充実している低中回転トルクのせいで、低いギアだとふけ上りが急すぎてビビる…ドンツキが気になる、とも言われるようです。
私は個人的には平気です。大昔の超ドンツキインジェクションの大排気量車に乗ったことがあるからかもしれませんが、実にスムーズだという印象です。
2017年モデルからは、エンジンの隣接したシリンダーの下部に穴をあけてつなぎ(ベンチレーションホール)、ピストンの動きに伴うシリンダー下部の空気の移動を助けることで最高出力を3馬力向上しています。
このあたりもピストンスピードが速いロングストローク傾向のエンジンならではの改善点でしょう。

GSX-S1000Fはクロスレシオのコンスタントメッシュ6段トランスミッションを装備していて、カバレッジは2.09です。
各ギア比で計算すると1速でレッドゾーン手前の11,000rpmまで引っ張れば120Km/h以上に達し、2速なら160Km/h近くまで、3速だと国内仕様自主規制の180Km/hリミッターが作動するはずです。
エンジンパワーに余裕があり、フルカウルで空力もそれなりによいため、ギア比的に6速の最高速である260Km/hちょい程度は十分達成できると思われますが、私のは国内仕様なので180Km/hちょいで自主規制リミッターが作動するはず。
なお100Km/h巡航は6速なら計算上は4350rpmです。結構回ってますね。燃費的には不利です。
6速100Km/hで巡行していても、そのままギアを変えずにちょっとスロットルグリップを捻るとすごい勢いで加速します。
高速を使ったロングツーリングが多いと、100Km/hを3100rpmくらいでこなす巡航専用7速が欲しくなりそうです。


スリッパ―クラッチ

2017年モデルから装備された、個人的に前愛車のFZS1000にも付けたかったスリッパークラッチ。バックトルクリミッターとも呼ばれます。

リッタークラス以上のスポーツバイクは車重に比して非常にデカい排気量のエンジンを搭載しているので、エンジン排気量(に比例するポンピングロス)に比例して効くエンジンブレーキが、メチャメチャ強く働く傾向にあります。
特に峠の下りを3速2速1速でハイペースで前傾姿勢になって走っているときなどは、ただでさえ前荷重になっているところにコーナー進入のシフトダウンで強烈なバックトルクが発生し、リアがロック気味になったりホッピングしかけたりして姿勢が乱れヒヤッとする…なんてことがリッターバイクではあります。
で、対策はどうするかというと、シフトダウン時に半クラッチ領域を長めに使ってシフトダウンに伴うエンジン回転数の急上昇とブレーキングによる後輪回転数の急低下のつじつまをやさしく合わせる、というテクニックを強いられるわけです。
慣れの問題ではあるのですが、慣れても気を遣う操作で、綺麗につながった時は快感ですが、正直なところ面倒くさいです。
この操作をクラッチ側が勝手にやってくれるのがスリッパークラッチです。
FZS1000でも後付けしようかと思ったくらい欲しかったのですが、後付けの場合の価格が15万円(工賃別)もして、あと駆動系を純正外にするのは保証や耐久性などにそれなりにリスクもあり、断念していました。
それが標準装備!嬉しい!

ショートストロークでキャブレター仕様のFZS1000でも強烈に効いたエンジンブレーキ。
インジェクション仕様のGSX-S1000Fのエンジンはアクセルオフ時は燃料カットされて、しかも高回転での抵抗が大きくなりがちなロングストローク傾向、おまけに軽量なため、当然の帰結としてエンジンブレーキがさらに強烈に効きます。
シフトダウン時に無邪気にクラッチをつないでも姿勢の乱れが抑えられることの快適さは、味わうと戻れません。
ただしアシストクラッチは装備されていなくて、ここも価格抑制ポイントです。(アシストが要るほど重くはないですが)

シフトダウンをスムーズにするためのさらに高度な技術で、半クラッチ領域をやや長くしつつ、一瞬スロットルを開けてエンジン回転を瞬時に上げて回転数を合わせるというテクニックもあります。
しかしこれは、コーナリングの姿勢を作って安定させたい一方で、「右手で前ブレーキをぎゅっと掛けて急減速しながら、左手でクラッチを切って、右足で後ろブレーキ掛けてバランスをとり、右手首を捻ってスロットルを一瞬開け、左足でギアを下げ、左手でクラッチをつなぐ」という操作を連続して瞬時にやることになります。
文章を見てもわかると思いますが上手にこなすにはかなりの訓練が必要で、そうそうできることではありません。右手の指でブレーキレバーを制御しながら同じ右手の手首でスロットル制御とか、この時点で無理があります。
電子制御スロットル搭載のモデルでは、これを自動でやる機能が備わっているものもあります。オートブリッピング機能などといいます。ギアポジションセンサーでシフトチェンジを検出するとコンピューターが自動的に電子制御スロットルを一瞬だけ、ちょうどよく開けてくれます。
スリッパークラッチよりさらに姿勢を乱さず安全にシフトダウンでき、コーナーでトラクションをかけ続けられるのでタイムも短縮できる装備ですが、2018年現在は、国産ではスーパースポーツなどの限界性能を追求した高価なモデルへの採用にほぼ限られています。


フレーム

専用設計のダイヤモンド形状のアルミツインスパーフレーム。
最初はGSX-R1000のフレームをそのまま使おうという話もあったそうですが、サーキットで勝つためのフレームは剛性が高すぎて公道で愉しむにはそぐわないということから、GSX-R1000用をベースに新設計したそうで。
そしたら(剛性を落としたこともあって)GSX-Rのフレームより軽くなっちゃいました!という、これまた多くのコストと時間をつぎ込んだ情熱のフレーム。
GSX-S1000Fの、装備重量214Kg!という、ネイキッドベースとは思えない恐るべき軽量さはこのフレームによるところも大きいでしょう。
前愛車のFZS1000が231Kg、これは2001年デビュー当時、鋼管ダブルクレードルのネイキッドベースのバイクとしては異例の軽さでした。
そして、ちょっとターゲットは違うけど、「スーパースポーツZX-10Rのエンジンを積んだネイキッドのZ1000にカウル付けた」といえる、生い立ちとしてはGSX-S1000Fに似てるNinja1000はアルミフレームですがFZS1000より重い235Kg。
Ninja1000はツーリング重視なので、ちょっと重いほうが安定性が増してキャラクター的にも適しているかもしれません。
このように数字を比べると、GSX-S1000Fの214Kgがいかに軽量に仕上がっているかわかります。
販売価格から高価な特殊軽量素材をふんだんに使えるわけでもないはずなのに、ちょっとおかしい軽さ。
(「フレーム単体」が軽いからといって全重量がGSX-R1000より軽いわけではなく、L6型GSX-R1000は装備重量で203Kg)
しかも開発の終盤になってエンジンハンガーの見た目が気に入らないとかいう理由で作り直したせいで発売時期が遅れたという逸話も。
スズキのこだわり素敵すぎますよ。
強大なエンジンパワーをうけとめる高剛性を確保しながら、適度なしなりもあってライダーが挙動をつかみやすく頼もしい、たいへんよくできたフレームです。こりゃ開発にかなりコストかけてます。
時代とともに解析技術なども向上して、どの部位の剛性をどの程度確保するかをきめ細かく設計しやすくなったり、その設計を実現するだけのアルミの鋳造や加工の技術があるからこそのフレーム。
技術の進歩ってすごい

エキゾーストシステム

エキゾーストパイプは、一見4-1集合なのですが、1-4番パイプと2-3番パイプ間に中継パイプを装備して、理論的には4-2-1集合となっています。(1枚目赤丸)
接続された相互の排気管の排気脈動を利用して低中回転域で積極的にお互いの排気を吸い出しあって、低中回転域のトルクを向上させています。

またSETというサーボモーターで動くバルブが排気管の集合部に仕込まれていて、このバルブ開き角をエンジン回転数とスロットル明け具合と選択ギアで変化させて、排気音による粗密波の位相を調節して、主に低速時のトルクを向上させています。(2枚目白丸)
エンジン特性を熟知し確かな解析技術がないとできない制御はメーカー純正ならではの仕組み。
全体的に非常に練り込まれたエキゾーストシステムで、しかも音もいいので、フルエキゾーストシステムの社外品交換はかなりためらいます。
替えるとしてもスリップオンで見えている部分だけ交換なら開発費を無駄にしなくていいかなあ。
コストパフォーマンスとか気にせず思う存分趣味丸出しでカスタムするという道もありますが…。

マスの集中化とかで短くまとめられたマフラー(3枚目)。最近のトレンドです。
エンジンの直下にかなり大容量の排気用チャンバーが配置されていて、そこで消音と浄化のほとんどを担当(2枚目赤丸)、外から見える排気管は見た目用の飾りと音質の調整が主な役割と思えます。

サウンドは、「本当に純正なのか?規制これで通るのか?」と思うくらいかなり迫力のある排気音です。
でもたしかに「SUZUKI」の刻印があり純正です。まぎれもなくスズキGSXの系譜を感じる、高性能そうな音です。ヴォッヴォッって感じの音。
純正では静かすぎて音に迫力がほしいという理由でマフラーを社外品に交換する人は結構いるのですが、少なくともその理由では交換の必要性を感じません。
スズキの中の人が言うには、消音性能とパワー特性の両立をぎりぎりまで突き詰めるために、マフラー内部の管の曲がる角度や長さをとても苦心したとのことでした。
デザインもきれいにまとまっていて車体との収まりがいいと思います。
GSX-S1000(カウルなしのモデル)には一部の車体カラーに応じてブラック仕様のサイレンサーがあります。
この青黒のGSX-S1000Fも、カウルやフレームやエンジン、またステップ回りがブラックアウトされているので、サイレンサーもブラック仕様のほうが渋くていいかもしれないとか思ったりします。
それとも周りが黒だからこそ、あえてシルバーのほうがアクセントになっていいでしょうか。

ただ、前愛車のFZS1000がとても静かだったこともあって、個人的には、特にアイドリングは、もうちょっと静かなほうが好みです。ちょっと近所に気を遣うなあ…。
カタログでは近接排気騒音は94dbで規制内とのことですが、騒音を測る回転数でだけ妙に静かになる設計だったり…は、トルクの谷は感じないからそんなことはしていなそう、というかそんな小器用なことできるメーカーじゃないですが。


シート

タンデムシートは車検証に「定員2名」と書くためだけに付けましたという感じ。
非常用には使えますが、タンデムメインならこのバイクは選ばないほうがいいです。
メインシートはそれなりに肉厚で、座り心地もまずますです。何から乗り換えたかで座り心地は評価が分かれそう。
長距離をずっと走るとさすがに尻が痛くなりますね。(大体のバイクは長距離をずっと走ると尻が痛くなる)
シート高は810mm、リッタークラスのスポーツバイクとしてはかなり低く、ダウンドラフトタイプの吸気であることもありシートのフロント側が絞り込まれているので足つき性はリッターバイククラスとしてはかなりいいと思います。

前愛車のFZS1000は820mmもあって、しかもホリゾンタル配置の四連キャブレターだったためフロント側も幅が広く、足つきはかなり悪いといわれていました。
だから乗り換えたときはGSX-S1000Fの足つきの良さにちょっとびっくりしました。ただ私は身長が181cm程度あるため、どちらの車種も足つき性には基本的には問題ありません。

シート高は、体重移動による車体アクションの起点(力点)になるため、体感する運動性と直結しています。
ですから、走る楽しさを考えると足つきが多少悪くともあまり下げないほうがいいと思います。
GSX-S1000は軽量なこともあって立ちごけの不安感はかなり薄いですし。
収納は、タンデムシート下にはETCと車載工具と書類を入れて、あとはほぼ何も入りません。収納性はとても悪いです。
そうそう、積載用に、一応タンデムシートの裏に荷掛けストラップが隠れています。


ウィンドスクリーン

2017年モデルからはスモークが入りました。これも精悍さを増しています。
個人的にはクリアのほうが好みです。スモークだとやや品がなく感じます。
また、タンクやハンドルにカメラをマウントして撮影するような場合は、クリアのウィンドスクリーンのほうがいいです。

サイズ的には「ツアラーじゃない」というキャラクター通りあまり大振りではありませんが、上体を起こした乗車姿勢を考慮して縦に長いデザインになっています。
181cmの(尻が厚いため座高も高い)私が直立に近い姿勢をとると、おなか回りは風にあたりませんが、胸から上は結構風が来ます。
もちろん伏せればかなり当たらなくなります。
ロングツーリング向けに高いウィンドプロテクション性能が欲しい人は、社外品のスクリーンがいくつか出ているので、交換を検討するとよいと思います。


燃料タンク回り

ニーグリップしやすく太ももにフィットする形状の燃料タンク。タンク容量は17リットル。

たった998ccの排気量から実に148馬力を絞り出す高性能エンジンを搭載していますから、もちろん指定燃料は無鉛プレミアムガソリン

燃費的に高速ツーリングなら400Kmギリギリが航続距離でしょうか。ふつうに走っているとギリギリ300Kmくらいの航続距離と思っておいた方がいいでしょう。

前愛車のFZS1000が21リットルという大容量だったので、比べるとちょっと物足りない容量。せめて19リットルくらい入るとロングツーリングでの印象が違うんですが。
ただ大容量タンクは燃料がたくさん入るので重くなりますし、タンク幅も広くなり足つき性やホールド性に影響してきます。
スポーツ走行重視のGSX-S1000Fとしては17リットルが最適というメーカー判断なのでしょう。(Ninja1000は19リットルタンクです。ツーリングでの航続距離を重視してるのがわかります)


前輪周辺

ホイールのスポークが細いのは昨今の流行です。
こんなに細くてフルブレーキング時に折れたり曲がったりしないものかと思うのですが、軽量そうに見えてカッコいいです。

ブレンボのピストン径32mmのラジアルマウントモノブロック対向4ピストンキャリパーにABSを装備。
ブレーキディスク径は310mm。
公道では十分なストッピングパワーとコントロール性を確保しています。
見た目も超絶カッコイイです。とっても効きそうです。

サーキットを攻め込むような領域だと、もうちょっとストッピングパワーが欲しい感じ。
いやサーキット攻めても効くし、私のレベルではそう簡単にフェードもしないのですが、どうも右手がブレーキレバーを一生懸命に握ってしまい手が妙に疲れることに気づきました。
ただしこれはパッドを替えることで対応可能かもしれません。

フロントサスペンションはインナーチューブ外径43mmのKYB製倒立式でフルアジャスタブルとリッターバイクらしく豪華な仕様。
しかしスーパースポーツのようなサーキットで勝つための最先端技術をつぎ込んではおらず、信頼性が高い枯れた技術で構成されたオーソドックスな構成で、これもGSX-S1000Fが安い理由の一つです。
ストロークは120mmで一般的。
前愛車FZS1000の140mmはとても長い前脚に感じていました。


後輪周辺

スイングアームはL5型のGSX-R1000のものをそのまま使っています。
外部に露出して見えるだけに、この手が込んだカッコいいスイングアームはうれしいです。

リアタイヤは190/50R17という極太サイズで凄い迫力
特別感ある形状のスイングアームと相まって、「高性能マシン」という印象を与えます。

タイヤが太いのにホイールスポークがとても細くてアンバランスな感じ…が、タイヤの太さを強調して、より凄みを醸し出しています。
公道で、このサイズのリアタイヤをきちんと潰せて面圧をかけられるのか不安ですが、タイヤ性能自体がなかなか高いので、そこまで頑張らなくてもちゃんと走れてます。
純正装着のタイヤ銘柄は専用設計のDUNLOP D214。素直な特性で癖のない扱いやすいタイヤでグリップ力も高いです。

リアブレーキはニッシン製でコントロール性に優れ、姿勢制御に使いやすいです。
後輪にもABSが装着されているのですが、これが下りのコーナリングではとても役に立ちます。
下りのコーナー入口のブレーキングは前輪に荷重が移動しているので後輪がロックしやすく、ハイペースでダウンヒルすると後輪が暴れかけてヒヤっとするようなシーンも…というのがありがちなのですが、後輪のABSがそれをきちんと抑制してくれて安心して姿勢を作れます。

リアサスペンションはリンク式です。
リアサスペンションのストロークは63mmでリンクによってホイールトラベルは130mmを確保。
参考までに前愛車のFZS1000は135mmで、乗っていて前後とも「脚が長い」感じがありました。

リアサスはフルアジャスタブルではなく、プリロードとリアの伸び側減衰だけ調整可能で、これもGSX-S1000Fが安い理由の一つです。

標準設定ではハイペースな悪路ではハネがちな気もします。
社外品に交換してもいいのですが高価なので、若干プリロードを弱め、伸び側減衰をちょっと強めるのがいいのではと思います。
特に海外向けメインの大型バイクは、標準の設定身長・体重が大柄な欧米人に合わせてある場合もあり(体重が80Kgとか90Kgとか)、日本人だと体重が軽すぎてプリロードが合わず、サスの動き出しが遅すぎる≒硬いと体感する傾向にあるのはよくあることです。
調整してもどうしても不満が残るようであれば社外品交換を検討しましょう。
とはいえ国内ではバイク市場があまり活発でないため、サスペンションシステムなどの高価な社外品は選択が限られてしまいます。
ここは走るのに大事な部品なので、(特に日本では上記の事情もあり)多少高価になっても純正品でより良いものを付けてほしいところ。
海外の情報を見るとオーリンズのTTX-GPのGSX-R1000用リアショックアブゾーバーが付くとありますから、GSX-Rのものを流用することもできるのかもしれません。(スイングアームは一緒ですし)


ハンドル回り

ハンドルはレンサルという有名なメーカーのアルミハンドル「ファットバー」という製品を標準装備。
ちょっと幅広くてオフロードバイク出身の私にはなじみやすいです。
大柄な白人さん・黒人さんならとても自然だと思いますが、オンロードだと、アジア人だともうちょっと幅が狭く手前に来たほうがしっくりくるのではないでしょうか。
バーの角度を調整することである程度の乗車姿勢の変更が可能です。
またハンドルバー自体を交換することもできます。

ハンドルバーがテーパー形状で真ん中が膨らんでいるのは強度やしなりや振動対策などからくる必然なのだと思いますが、このテーパー形状と、ハンドルクランプがハンドルバー中央を台形に囲んでいるおかげで、ハンドルバーの真ん中にスマホやナビを固定するためのホルダーを取り付けられません
見た目はカッコいいのですが、ハンドル回りの追加装備を考慮すると、ふつうのハンドルクランプ形状のほうがいいです。

2017年モデルからハンドル回りのレバーがブラックアウトされて(ステップ回りもブラックアウトされた)、パッと見はちょっとカスタムされている感になりました。アルミ鋳造の地肌が見えるクリア塗装よりちょっと高級感あります。
フロントブレーキのマスターシリンダーは純正でラジアルタイプが装備されています。
そして、スロットルは見ての通り通常の物理的な鋼線ケーブルがスロットルグリップからスロットルバルブに直結している方式で、昨今の上級モデルで採用が増えているスロットル・バイ・ワイヤー=電子制御スロットルではありません。
だから、電子制御スロットルを用いる走行モードの変更機能は持っていません。(雨天時など、大きくスロットルグリップをひねっても実際のスロットルバルブの開度を抑えるなどして扱いやすさを向上する機能)
これもGSX-S1000Fが安い理由の一つ。(トラクションコントールは装備しています)

電子制御スロットルがある機種で走行モードを変えなければならないようなシチュエーションにGSX-S1000Fに乗っていて遭遇したら、それなりに緊張してゆっくりやさしく操作することで対応しましょう。何の問題もありません。
スズキ独自のデュアルスロットルバルブは採用されていて、ライダーがスロットルグリップで操作するスロットルバルブのさらに奥に、ECUに制御される第二のスロットルバルブがあり、実際のスロットルバルブ変化をよりマイルドに補正しています。

とはいえ車重が軽い・低中回転域トルクが大きい・乗車姿勢が立っていることから、前述のように唐突感を感じるライダーもいるようです。
電子制御スロットル採用機種では、このあたりの調整をソフトウェアで詰めることもできますが、無いものは仕方ありません。
どうしても気になるようであればスロットルの物理的改造をすることになろうかと思います。

クラッチはごく普通のケーブルタイプで、半クラの制御もしやすいです。
ケーブルタイプは使っているうちにどうしても潤滑劣化したり鋼線へのコーティングがが剥がれたりして徐々に抵抗が増えて重くなる傾向にあります。そうなったら消耗品として交換するパーツです。
ケーブルへのオイルインジェクターなどで潤滑を復活させる手段もあるのですが、リッタークラスのケーブル類はテフロンコーティングされていたりして、それでも重いというのはコーティングが磨滅している可能性が高いので、素直に交換をお勧めします。


トラクションコントロール

ちゃんとOFFもできるトラクションコントロールシステム。
たまに走行モード機能と混同されますが、走行モード機能とトラクションコントロール機能は別物です。

スズキのトラクションコントロールシステムはスロットルの開度、前後タイヤの回転数やギア選択やクランク位置などから、タイヤのスリップを検出して、それに応じてエンジンの点火タイミングや2つあるスロットルバルブの片方を制御することでパワーを落としてタイヤのスリップを解消する、いわばパッシヴ・スタンバイなシステムです。
効き方を変更できますが、あくまでも「スリップを検出する感度」を調整するのであって、スリップしない限りは動きは変わりません。
FZS1000には無かったので、このエンジンパワーの制御を右手のスロットルグリップ一つで行っていましたが、GSX-S1000Fのそれは秒間250回の制御を行ってくれるそうで、これは人間の手でどうこうできるレベルの緻密さをはるかに超えています。
介入も自然です。モード1ではリアスライドも結構許してくれますが、スリップダウンはしないという感じで、後輪が滑っても横にダラダラ滑り続けず、前に進みます。頼もしいです。運転がうまくなったと完全に錯覚します。
モード3はとても安全で、まず後輪が滑る感じになりません。
モード2に設定しておけば、公道ではほぼ問題なくストレスなく走れ、いざというときはそれなりに効いてくれます。

余談ですが、電子制御スロットル装備車にある走行モード切替は、タイヤのスリップに関係なく、設定したモードでスロットルグリップのひねり具合とスロットルバルブの開き方を関係づけます。滑ってから瞬時に対処するトラクションコントロールと違い、あらかじめ滑らないように制御する機能で、ですからこれはアクティヴな機能になります。
もちろん両方の機能を装備しているバイクもありますが、上記の違いがあるため、それぞれ独立して装備できます。
GSX-S1000Fはトラクションコントロールだけ装備しています。


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